749 名前: 00 04/07/14 00:18 ID:YJFOEG/c
8年程前、まだ自分が学生だった頃の夏休み中の出来事です。

この年の夏、僕は特に旅行に行く予定も田舎に帰る予定もなく、
ただだらだらと東京のおんぼろアパートに篭っているよりはどこか涼しい場所で
住み込みのバイトでもしていた方がお金も貰えるし、食費や光熱費の節約にもな
るし、なにより素敵な出会いなんかもあって色々楽しいこともあるかもしれん
と、N県のとあるリゾートホテルで1ヶ月間、住み込みでアルバイトをすること
にしました。
採用も無事決まり、初めての住み込みバイトということの不安と期待の入り交
じった気持ちの中、あっという間にバイト初日の日がやってきました。僕は朝5
時に起床し身支度を整え、朝食を終えて午前7時頃に家を出発し、だいたい午前
10時半前にはホテルの最寄りの駅に到着しました。ホテルのある場所が駅から少
し離れた山の中腹に建っていることもあり、駅からはホテルの送迎用のバスに
乗って現地まで向かうということでした。

752 名前: 01 04/07/14 00:23 ID:YJFOEG/c
僕は駅前のロータリーに何台も止まっている他のホテルや旅館の送迎バスの中から、
自分がこれから世話になる「△△ホテル」と書かれた厚紙をフロントガラスに貼付
けてある送迎バスを見つけると、・・・よし最初が肝心、いい印象をあたえる為に
まずはバスの運転手の人に元気よく挨拶しよう・・・などという考えが頭に浮かび
ました。そこで僕、送迎バスの乗車口を上がりながらかなり大きな声で
「こんにちわ、今日からこちらのホテルでアルバイトすることになっている○○です」
とバスの運転手にむかって挨拶をし、私は元気で無邪気な学生ですといった表情を
しながら運転手の顔を見上げました。その瞬間、僕の無理矢理作ったアホ面は
凍りつき、背筋や手足にゾクゾクと鳥肌が立つのを感じました。


754 名前: 02 04/07/14 00:26 ID:YJFOEG/c
そこで僕の目に飛び込んできたものは、首から頭の先まで毛というものがまったく
存在せず、真っ白い皮膚にびっしりと見られる斑点状のモノに覆われた顔面、
そんななかにある小さな黒目は小刻みに揺れており、口紅を塗りたくったような真っ赤
で大きな唇が眩しい、かなり異様で不気味な顔立ちをした運転手の顔でした。
僕は悲鳴を上げそうになりましたが、どうにかこらえて自分の感情を顔に出さな
いようしながら、今度は小さな声で「○○といいます。今日からバイトでこちら
に…」と運転手に向かってもう1度自己紹介をしました。
しかし運転手は、最初の挨拶の時も、また今回も僕の方には視線をよこず、前方
の方に顔を向けたまま無言で少し首を振るだけでした。
僕は少しの間途方に暮れ、さてどうしたものかと考えました。このままバスに乗
るべきか、はたまたもう1度この運転手に話しかけてみるべきか、それとも東京
に逃げ帰るべきなのか・・・

755 名前: 03 04/07/14 00:27 ID:YJFOEG/c
正直なところ僕はもうこの時点でここで働く気力が一気に萎えてしまい、一刻も
早く東京のアパートに逃げ帰りたかったのですが、ここに来るまでにかかった交
通費が、当時貧乏学生だった僕にはかなりの高額で、更に帰りの交通費も自費で
出さなければならない(交通費はアルバイト最終日に給料と一緒に渡される)と
いう状況がネックとなり結局、東京に戻るという選択肢はなくなりました。かと
いってあの運転手にもう1度話しかける気力も、直視する勇気なかったので、
そのまま無言でバスに乗り込むことにしました。

756 名前: 04 04/07/14 00:29 ID:YJFOEG/c
僕はバスに乗り込み1番後ろの座席の方に移動しました。するとまだ座ろうとし
ないうちに、ブルルルルルルとエンジンの目覚める音が車内に鳴り響き乗車口の
ドアがぷしゅうという音と共に閉まりました。僕は「えっ・・・乗客って俺ひとり
だけ!?・・・」とこの状況に愕然としました。
僕はてっきりこのバス(定員17人と記載されていた)の大きさならかなりのお客
さんが乗って来るのだろうなと、要するに他にも人がたくさん乗っていれば別に
運転手がどうであろうと何も恐れることなどないと考えていたのです。だから
ちょいとビビリながらも何とかバスに乗り込むことができた訳です。
しかし今更やっぱり降りますなどとは言える状態ではなく、しかたなく黙ってそ
のまま座っていることにしました。何事もなく無事にホテルに辿り着けますように
と神に祈りながら・・・

759 名前: 05 04/07/14 00:43 ID:YJFOEG/c
駅の周辺は観光地ということもあって結構賑わっていたのですが、駅から7〜8分
もバスが走り続けると辺りはすっかり緑に囲まれてしまい、すれ違う人や車の数
も急に少なくなってきました。
しかしこの時の僕は、まぁかなり周りは寂しい場所になってきたけど実際にそん
なヤバい状況に陥ることなんてまずないしょまだ昼前で日もかなり照ってるし、
とかなり落ち着きを取り戻していました。冷静に考えて見れば、なにかの病気あ
るいは事故にあった気の毒な運転手さんに対して、失礼にもこちらが勝手にビ
ビってしまっているだけじゃないかと。
というわけで少し気持ちが軽くなった僕は、車窓の外に広がる青々と生い茂る
木々や、その間を飛び回る野鳥の愛らしい姿など、都会とは違った大自然ののん
びりとした景色を眺めているうちに、ここまでの道のりと朝5時起きという普段
の生活習慣からは考えられない程の早起きなどで少し疲れていたのでしょう、
いつしかウトウトと眠り込んでしまいました。

765 名前: 06 04/07/14 00:51 ID:YJFOEG/c
ガサガサという耳障りな音で僕はハッと目が覚めました。
どれくらい眠っていたのでしょうか、眠り込む前はまだ昼前で窓から日の光が
激しく差し込んでいたのですが、今はもうすっかり日が暮れかかっているのか、
窓の外はすっかり薄暗くなっていました。
バスの中も小さな車内灯が2つ3つ点灯しているだけで暗く、周りがどうなって
いるのか、まだ完全に目覚めきっていない僕はまったく状況が掴めませんでした。
とりあえず今何時なのか確認する為、僕は左腕の腕時計に目をやりました。
しかし腕時計には、何故か文字盤の部分に紙切れのようなものが貼付けてあり、
そのままでは時間が確認できないようになっていました。
「誰がこんな事を・・・?」
僕は文字盤に貼り付いている紙切れのようなモノを取り除こうと、指先で文字盤
に触れようとした瞬間、その紙のようなモノが宙に舞いだしたのです。

768 名前: 07 04/07/14 00:59 ID:YJFOEG/c
僕は突然宙に舞い出した紙切れのようなものを、呆気にとられながらも眺めつつ、
少しの間をおいてそれが蛾だという事にようやく気付きました。そしてその蛾を目
で追っている内に、バス内の暗さに次第に目が慣れてきました。そこで僕はバス内部
の状況を目の当たりにして、思わず悲鳴を上げていました。
車内灯の周りにはグルグルと飛び回る無数の白い蛾、バスの窓にベッタリと張り付
いているのは、全長10センチ以上はある気味の悪い大きな斑点をもつ蛾の大群、黄色
い羽根を持ち、バス内をすごい勢いで飛び回る中型の蛾、天井には人の美的感覚を
逆撫でするような異様に大きな触覚を持つ蛾が張り付き、その横には原色の羽根を
こちらに見せつけるように張り付いた三角形状の蛾、シートには先程、紙切れと間違え
たベージュ色の蛾が何十匹も覆いかぶさるようにガサガサと音を立てていたのです。
そう、バスの車内はいままで見た事もないような大小様々な何百匹もの蛾達がいつの間
にか入り込み、車内を占領していたのです。

771 名前: 08 04/07/14 01:01 ID:YJFOEG/c
僕は大慌てで荷物を持ち、蛾の大群を振り払いながらバスの乗車口に向かって駆け出し
ました。この時バスのエンジンはかかったままでしたが、バスは乗車口が開いたまま停車
しており、どこにも運転手の姿は見当たりませんでした。
ともかくこんなバスの中にいつまでも居られたモノでないので、バスから直ぐに飛び出しました。
外に出るとそこは駐車場のようで、少し離れた場所に僕がバイトすることになっている
「△△ホテル」と記されているネオンが見えました。
僕はそのネオンの方向に向かって歩き出し、大きなネオンが輝く下にホテルの正面玄関
を見つけてフロントへと近づいて行きました。

フロントにはあのバスの運転手の姿があり、その横では長身で痩せたタキシード姿の男性が
こちらに笑顔をむけて立っていました。
僕「・・・」
タキシードの男性「やぁ、○○くんだね。△△ホテルへようこそ」

772 名前: 09 04/07/14 01:06 ID:YJFOEG/c
・・・タキシードの男性はホテルの支配人でした。
そして支配人の方を通してバスの運転手の方にも改めて挨拶をしました。
運転手の方はやはり、昔に事故に巻き込まれてしまい声帯と顔に傷を負ってしまったそうで、
顔面の筋肉と喉の機能が麻痺してうまく喋ることが出来ないという事でした。
僕がバスに乗り込む時に返事をしなかったのは、無理に声を出しても多分聞き取れないだろ
うし、その仕草で相手を怖がらせてしまうという事が分かっていたのであえて、僕に顔を
向けない様にして軽く頷くだけにしたという、運転手の方の僕に対する配慮した結果とった
行動だったそうです。
またバスがホテルに到着しても僕がグッスリと眠ってしまっており、ちょっと位揺さぶっても
起きないので支配人と話し合った結果、そのまま寝かせておく事になり、その際に夏場の車内
はすぐに暑くなってしまうのでバスのエンジンはかけたままにしてクーラーを入れ、僕の目が
覚めても車内に閉じ込められたままにならないようにと、バスの乗車口のドアを開けたままに
しておいた結果、車内灯に釣られて蛾の大群が乗車口より入り込んで上記のような事になって
しまった様でした。

773 名前: 0A 04/07/14 01:08 ID:YJFOEG/c
僕はこの運転手さんの心遣いに感謝して、色々とお礼やら非礼を詫びたりやらで何度も、
頭を下げた事をいまでも記憶しています。いまでは彼とは手紙のやり取りなどする程仲の良い
友人となりました。しかし今回書き込んだ話は僕の人生の中で1番怖かった出来事でした。
この文章の中で彼に対する表現が、当時僕が彼に初めて出会って感じたままを書き記した為、
少し不快に感じる言葉を使ってしまったことで罪悪感を感じ・・・まぁ、・・・でも・・・ケ・・・

 おわり