迫る女


632 聞いた話 ◆UeDAeOEQ0o sage 04/01/07 19:52
自転車仲間に聞いた話。

夕暮れ時。林道をMTBで爆走し、小さな湖のほとりで休憩していた。
日没に赤く染まった湖面を眺めていると、妙なものが目に入った。
水際に、黒い蓮の葉のようなものが浮いている。
(黒い蓮の葉なんてあるのか?サイズもアマゾンの大蓮なみに大きいし…)
そんなことを考えながら水を飲んでいた。
と――― 蓮の中央がゆっくりと盛り上がる。最初は耳。次に鼻。口…
長い黒髪の女が水面から姿を現した。
肝を潰して自転車に飛び乗った。全速力で来た道を下る。

麓の駐車場に着いた。一息つく間もなくキャリアに自転車を積み込む。
ふと、下ってきた道の入口に目をやった。全身が凍りつく。
さっきの女がこっちを見ていた。こんな時間で追いつけるハズがないのに…
青白い顔に、そこだけが紅い唇を少し開け、ゆっくりと近づいてくる。
車に乗り込み、猛然とスタートさせた。
国道に出るまで、バックミラーは一度も見なかった。
自宅にたどり着いても震えが止まらなかった。
自転車を玄関から放り込んで鍵を掛ける。
そのまま、友人の家に転がり込んだ。

翌日の昼、友人と一緒に自宅に戻った。
鍵を開けて中の様子を伺ったが、妙な気配は無い。
玄関に放り出しておいた自転車を仕舞おうとしゃがみ込んだ。
前輪のスポークとサスペンションに、長い黒髪が絡みついていた。