- 467 雷鳥一号
sage 03/12/02 23:36
- >>443
サトリの話ですか。
うーん、サトリかどうかは分からないのですが、知っている話の中から ピックアップしてみました。
でも、山の中に長いこといると、不思議に他人の考えていることって 大体分かるようになるんですよ。
何日もその人だけと顔をつき合わせている所為かもしれません。 山を下りたら、やはりまた分からんちんに戻ってしまうのですが。
- 468 雷鳥一号
sage 03/12/02 23:37
- 知り合いの話。
彼はムシャクシャした気分になると、独りで山にこもる癖があった。 その日も彼は一人野営をしていた。
仕事の上で同僚と衝突して、彼は短気を起こして口論になったのだ。 いつものように独り言を呟き始める。
一種の儀式みたいなもので、こうすると冷静に自省できるのだという。
色々と同僚への文句を並べ立てていたが、自分の方にも悪いところがあったのは 彼にも分かっていた。
不満をぶちまけた後で「いや違う、そこは俺が悪かった」と思い直した時。 真向かいの林の中から、はっきりとした声が聞こえた。
いや、違う。そこは俺が悪かったのだ。
彼自身の声とまったく同じ声色だった。 その瞬間、悟ったのだという。
彼はそれまで独り言をくり返していたつもりだったのだが、実は彼と同じことを 考えている何かと、延々と会話を続けていたのだ。
なぜ、その時まで気がつかなかったのかは分からないが、気がついた途端冷水を 浴びせられたような気がしたそうだ。
それきり彼は黙り込み、林の中の声もそれ以上何も言ってこなかったらしい。
以来、彼は短気を起こさなくなった。
頭に血が上っても、あの時の声を思い出すと、自然と冷静になるのだそうだ。
- 469 雷鳥一号
sage 03/12/02 23:37
- 知り合いの話。
彼女は気が強く、山にも一人で出かけることが多かった。 紅葉狩りに行こうと秋の谷へ出かけた時のことだ。
通る人とて無い細い道を歩いていると、木立の奥より物音がした。 覗いてみると、少し先の木陰で、大きな猿のような背中が樹の根元を掘っていた。
ここで襲われたら逃げられない! 強気な彼女も、その時ばかりは一人でいることに焦ったらしい。
すると、まるで彼女の心を読んだように声がかけられた。
襲わんよ。わしはこれでも菜食主義者なんでな。
まさか口がきけるとは思わず呆然としていると、それは立ち上がって振り向いた。 大猿の身体に、初老の男性の顔がついていた。
立ちすくむ彼女を残し、それは悠然と歩き去ったという。 その手には、掘り出したばかりの長い山芋を持っていたそうだ。
- 470 雷鳥一号
sage 03/12/02 23:38
- 知り合いの話。
彼のお爺さんは炭焼きをしていたという。 ある寒い夜、窯の前で火の番をしていると、闇の中から声がかけられた。
寒いから、そちらへ行っても良いか。
里の者だろうと思い、いいよと答えると見慣れぬものが姿を現した。
それは大人ほどの大きさで、全身が黒い剛毛で覆われていた。 目鼻さえ見てとれぬ顔を見て、腰を抜かしかけたそうだ。
ああ、やはりそうだ。お前も俺が醜いと思うのだな!
それは哀しそうにそう叫ぶと、背を向けて山の中へ逃げていった。
お爺さんは終始口を開くことができなかったそうだ。
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