博物館


176 本当にあった怖い名無し 2012/03/13(火) 22:39:40.66 ID:8F3b5Ant0
ある夏の、一人旅の最中の出来事。
乗り継ぎの電車が4時間後だというのでその町で時間を潰すことに。
駅の案内を見ると、どうやら郷土博物館がある模様。
行ってみることにした。

ついてみると、町営(市営?)とは思えないほどなかなか立派な佇まい。
「すみません、大人1人」ちょっとびっくりした顔の受付の人。
まあ、平日の昼間に来る人も少ないのだろう。
料金を払って、私は中に入った。

誰もいない。見事に貸しきり状態。
お目当ての土器や民具などをじっくり見、満足。
資料も揃っていて、かなり楽しめた。

2Fにも展示がある模様。城のジオラマ等があるようだ。
階段を上った。
時間はたっぷりあるので、ゆっくりと見回る。
ふと、胸ポケットに入れてある携帯の着信ランプが
点滅している事に気づく。
「ん?」携帯を開く。電話もメールも来ていない。
それ以前に、他の客がいないのをいいことに
そもそもマナーモードにしていない。
着信があれば、着信音が盛大に鳴るはずだ。

177 本当にあった怖い名無し 2012/03/13(火) 22:40:19.66 ID:8F3b5Ant0
そのうち、点滅が止んだ。
買ったばかりなのに接触不良とは腹が立つ。
再びコースを巡っていると、妙な音が聞こえてきた。
ぴし ぴし   ぴしっ
それと共に、急に冷えてきた。
なんだろう、冷房装置の音かな?今日は確かに暑いけど
ちょっと効き過ぎだななどと思っていると
ぴしっ   びしっ
音がだんだん近づいてきた。
少々気味が悪くなり、この場を離れることにした。

階段を下りると、先程見なかった展示物があるのに気づいた。
階段の右手にあったのに、何故気づかなかったんだろう?
縄文時代の人々の暮らしを人形を使って展示してある。
見ることにした。
人形はかなりよくできている。
当時の埋葬を再現しているものまであった。
このブースは、ライティングのせいか、他の所より薄暗い。

178 本当にあった怖い名無し 2012/03/13(火) 22:42:57.27 ID:8F3b5Ant0
さて、もっと奥に進もうか…と思ったとき、また
ぴしっ   ぴしっ
あの音が聞こえてきた。
奥から。
加えて微風。
例えれば舞台に焚かれたドライアイスのスモークが
すうっと客席に下りてくるような、かそけき冷たさ。
ほの暗い奥に目を凝らすと、何か黒い靄が蠢いている。
私はそれから目を背け、ゆっくりと出口に向かった。
走ると何故か追いかけられそうな気がしたので。

館を出るとき、館員に挨拶しようと思い事務所を覗いたが
誰もいない。ロビーを満たす自然光が妙に寒々しい。
館を出て、午後遅くの太陽を浴びて、私はやっと息をついた。

話はこれで終わり。
博物館の名誉の為に言っておくと、展示物や資料は素晴らしかった。
力のある学芸員さんがやったんだろうな。
あの美しい火焔形土器をもう一度見たいのだが、流石に一人で行く勇気はない。