七宝のブローチ


679 名前: 麻布 ◆1F42ZK8k 02/04/03 02:18
朝の9時を回り、私服に着替え「昨日はいろいろあって大変だった・・・」と思いながら
深夜勤務を終えて帰ろうと廊下を歩いていると、簡単なソファーと自動販売機の置いて
ある喫煙所でなにやら患者さんどうしで雑談に興じている山田さんと目が合った。

「山田さん点滴中はベットに横になっていてくださいね・・」と私服であってもやはり看護婦
の顔。仕事から解放されたこともあってちょっぴり口をどがらせても笑顔。

手をふってバイバイ・・そして階段を下りようとして山田さんから声をかけられた。
「看護婦さん、麻布さん、退院するんだって、良くなったんだぁ、いつも死んだおとーさん
みたいだなんていっていたから、寂しいだろう?」

私はえーと思ったがその場では言葉を飲み込んでしまった。 「だって昨日・・・」
「さっきまで麻布さんと何人かで話し込んでいたんだよ」
8人部屋でいっしょだった何人かで「俺も退院したらどこかで会おう」なんて話してたんだよ、
個室に移ったときは「ああ悪いんだなぁ」なんていってたんだけど、一番先に退院だもなぁ・・・」
「もうすぐ迎えが来るから」といって、さっき帰ったんだけど、「ナースルームへ行ったら看護婦
いなくて・・・」とあんたに渡してと、これ預かったんだよ。

見ると小さな箱だった、中には七宝焼きのブローチがはいっていた。
それは確か遺品とともに昨日、ある施設の職員の人にわたしたはず、検温に行くといつも
そのブローチを触りながらいろんな話をしてくれ麻布さん、奥さんと別れたこと、子供さんが
いたこと、生きていれば看護婦さんと一緒の歳ぐらいだよ・・なんていつも話してた。

ふと、目を移すとと窓の向こうに黒塗りの寝台車がうごきはじめたところだった。
私は叫びながら、かけだしてしまった  「おとーさんまって!!」
泣きながら、思った。「私は知っている、母は父は死んだと言っていたが、本当は別れた事
そして、死んだ父がはじめて買ってくれたって大事にしていた母の宝物。

それが七宝焼きのブローチだということを」