キュルキュル


80 1 2006/07/05(水) 01:36:39 ID:vnJayyR50
>>79
乙。おもしろかったお。正直オマイの書き込みにはかなり助けられてる。



今日もいつものように家に帰ってきた僕はゲームをすることにした。
ここ最近友人の間で話題になっているRPGだ。
部屋に入ると僕は早速かばんを置いて引き出しからプレステ2を取り出そうとした。
異変に気付いたのはその時だった。

「あれ?プレステ2が表に出てる」

みるといつもは鍵付きの引き出しに仕舞っているプレステ2が地面に置かれていた。
配線も、コントローラーも、メモリーカードも。
どうやら引き出しの中に入っている物はすべて出されているらしく、僕は母が引き出しに何か入れたのだろうと思った。
「一体何が入ってるんだろう?」
不思議に思った僕は引き出しに手をかけた。だが鍵がかかっているらしく、引き出しは開かない。
僕は引き出しに鍵などかけた事が無かったので、不審に思った。
よく見ると引き出しからは一本だけ長い髪の毛が出ていた。カツラでも入っているのだろうか、と僕は思った。
「まぁいいや、ゲームしよ」
結局その時はあまり気にせず、僕はゲームをすることにした。

……何時間経ったのだろう。
気がつくと先ほどまで明るかった空は赤みをおび、時計の短針は真下を指していた。
あぁ、もうこんなに経ったんだなぁ、などと思っていると不意に母の叫び声がした。
「健太ー!ちょっと買い物に言ってくるから!!」
「わかったー!」
僕がそう言うと母は出かけたらしく、ガチャン、と玄関のドアが閉まる音がした。

母が家を出て十分ほどした時だ。静寂に包まれた我が家に、プルルル、という電子音が響いた。電話の音だ。
僕の家には子機と言うものがなく、電話はリビングに一台あるのみだったので、僕はしぶしぶ階段を下りて電気のついていない部屋に入り、電話を取った。


81 1 2006/07/05(水) 01:38:16 ID:vnJayyR50
「もしもし?」
僕は言った。だが返事がない。部屋に再び静寂が満ち、カラスの鳴き声が聞こえてくる。
いたずら電話だろうか、そう思って僕が電話を切ろうとした時、左耳に当てていた受話器から声がした。
「あなた、キュルキュルキュルでしょ?」
甲高い女性の声だった。
彼女は僕に何か質問しているようだが、
生憎肝心の部分がまるでテープを早送りしたみたいにキュルキュル鳴っていて、彼女の言っている事が聞き取れなかった。
困惑した僕は「あの、もう一度言っていただけますか」と言った。

82 1 2006/07/05(水) 01:43:21 ID:vnJayyR50
「あなた、キュルキュルキュルでしょ?」
やはり聞こえない。何かのいたずらなんだろうか。
僕が電話を切ろうとした時、不意に二階からバン!!という音がした。推測するに、音は僕の部屋からしたように思われた。
僕はその時、何故か音の発生源が先ほどの引き出しじゃないだろうかと思った。

「あなた、キュルキュルいんでしょ?」
また受話器から声が聞こえた。だが心なしか、さっきより聞き取れる箇所が増えてきている気がする。
僕はもしかしたら電話を切らなければ質問を聞けるんじゃないかと思い、電話を切らない事にした。
見ると外はもう暗くなっていて、僕はそれを見てはじめて太陽が沈んでしまった事を感じた。

「あなた、キュルキュたいんでしょ?」
また少し、聞き取れる部分が増えた。
その時、部屋の外からギシッ、と床が軋む音がしたような気がした。
ただ、部屋が暗く、受話器にはコードがついているので部屋の明かりをつけて誰かいるのか確かめる事もできない。少しだけ受話器を置いて電気をつければいいのだろうけれど、なぜだかそれはしてはいけない気がした。

「あなた、キュルにたいんでしょ?」
また聞き取れる部分が増え、早送りの部分が段々と鮮明になってきた。そのとき、心なしか背後から声がしたような気がしたけれど、部屋が暗くて周囲を確認することが出来なかった。

「………」
と、突然声が途絶えた。
先ほどまで聞こえていたカラスの鳴き声はいつの間にか消え、僕の周囲には沈黙と闇と冷えた部屋の空気、そして受話器が残っていた。

不意に、肩に何かが触れた。それが髪の毛だと気付くまでに、それほど時間はかからなかった。
そして、声が聞こえた。
受話器を当てていない右耳から。
「あなた、死にたいんでしょ?」

「嫌だ!!!死にたくない!!!!」
反射的に僕は叫んだ。
すると耳元から「ちっ」という舌打ちが聞こえたかと思うと、そばにいた誰かはドンドンッと音を立てて階段を上って行った。
しばらくして母が帰宅した。僕は、母に事の次第を話すと、母と一緒に部屋の様子を見に行った。そこでは鍵がかかっていた引き出しが開いていて、中には黒くて長い髪の毛が一本、入っているだけだった。