見られている(ベートーベンの絵)


283 【音楽室のベートーベンの絵】 sage 2007/03/27(火) 16:50:33 ID:S0HIQS6tO
先日、彼女の葬式に参列した。
帰り際、中年の女性に
『お弁当配られるまで、こっちでお茶飲んでいらっしゃいな』
給湯室に引っ張られた。
中に入ると、手伝いらしき喪服の女性達がいた。
『はい、どうぞ』
まだ肌寒いので、温かいお茶はありがたい。
『いただきます』

『・・・でね、話の続きなんだけどぉ・・・遺影がね』
どうやら井戸端会議の中に、入れられてしまったようだ。
・・・長くなりそうだな。
『どこにいても、目が合うのよぉ』
『途中で、親戚の子が大泣きしたじゃない。
あの時、遺影がニヤニヤ笑ってたのよぉ』
・・・恋人の葬式に来て、こんな話を聞くのは正直気分が悪い。
俺が愛美と付き合ってたなんて、知らないからだろうけど・・・
『あの・・・』
おずおずと、愛美に面差しの似た少女が口をひらいた。
『・・・遺影じゃないんだけどね。
お棺の向こうから、愛美ちゃんがね、
・・・こう・・・こんなふうに目だけ出して、じっと見てたの。
・・・お兄さんのこと』
言いながら、申し訳なさそうに俺を見た。
『気分悪くなさらないでね。この子の他にも、見た人沢山いるのよ』

284 【音楽室のベートーベンの絵】 sage 2007/03/27(火) 16:52:34 ID:S0HIQS6tO
『準備中も、ずっと遺影がね・・・』
『やだ・・・私が見たのはね・・・』
お茶はすっかり冷めてしまい、さっきからひどく寒気がする。
『微笑んでる、いい表情の遺影なんだけどね・・・でもね・・・』
『あれ・・・。あ、あの写真、撮ったの・・・お、俺です・・・。
去年の・・・り、旅行の時に・・・』
愛美と俺の関係を察したらしい女性達は、
葬祭場を出る時、山のように塩を振りかけてくれた。
あれ以来、愛美に関する物は全て処分した。
あの写真の愛美が、今でも俺のことをじっと見ている気がして・・・。