306 【赤】1/4 sage 2007/04/01(日) 18:42:13 ID:Dp3Tsx2Y0
【赤(元ネタ:赤いチャンチャンコ)】

 ――赤いチャンチャンコは好きですか?


 という噂は聞いた事がないだろうか?
 よく噂される類の有名な話。トイレで不意に用を足していたり
すると扉の向こうから上記の台詞が聞こえてくる。よくあるパターン
では赤は身体の衣服が真っ赤に染め上がるように出血させられ、青は
身体中の血を抜き取られる、などがあり、世間を震撼させたものである。

 まるでこの話を蹴襲したような話がある。とりあえず仮名として
『赤』とでもタイトルを振っておこうか。
 体験したのはA子とB子という好奇心旺盛な小学生の少女。
 今風の私服に身を包み、それなりの裕福な家庭で育ち、それなりの
学び舎で学力などを育む、何処にでもいる子である。

 さて、このA子とB子の通っている小学校ではある時から変な噂
が流れ始めた。それは誰が言い始めたのか解らないし、気づけば
まるで、コンピューターウィルスのように学校中に蔓延していた。
 噂の内容はこうだ。学校には旧校舎などは無いが、新築のできたて、
ピカピカになったトイレがある。
 ただしそれは職員専用のトイレであり、学童は入る事が許されない、
という訳ではないのだが普通は入らないものだ。

 さて、その新調されたトイレだが、そのトイレに関する噂なので
ある。真夜中のこのトイレに侵入すると、不意に空気が凍り付いた
ように寒気を帯び、『赤』に関する質問をされるらしい。ただし、
この噂は『二人』で行かなければ起きないという。


307 【赤】2/4 sage 2007/04/01(日) 18:43:46 ID:Dp3Tsx2Y0

 それがどのような質問なのかは定かではない。何故ならそれを
面白半分で調べようとした学童が立て続けに、まるで神隠しにあった
とでも言いたいばかりに行方不明になっているのである。

 行方不明になった学童の学年などはバラバラだったが、事態を重く
見た先生や保護者たちは警察と一丸となって付近一帯を捜索した。
 無論、あのトイレも……だが、学童たちは見つからなかった。

 それから二週間ほど経過し、大人たちは苛立ちが募り始めていた。
 A子とB子はその隙をついたというか、脆弱していた警備の網を
掻い潜って、例の新調トイレの前に居た。

「ココだよ、B子ちゃん」
「解ってるわよね、私たちは真相を確かめる為に来たんだから!」

 黒髪ロングストレート、奥ゆかしいA子。茶髪短髪の活発で若干
ツンデレ気味のB子。相反するような二人だが、二人は親友同士で
ある。二人はもしもの為にとバットとバタフライナイフを二人は
『装備』し、グッと勇気を込めて男子トイレの中に入っていった。

 中は真っ暗で、持っていたライトで照らし出す。不気味な事に
音という音が聞こえない。まるで無音空間のようである。二つの
ライトが中の構造を照らし出す。光に反射する無機質な空間。
小便器が三つ、大便器と思しき個室は奥に三つある。噂は一番
奥の大便器で聞こえるらしい。

308 【赤】3/4 sage 2007/04/01(日) 18:44:34 ID:Dp3Tsx2Y0

「怖いよ……」
「だ、大丈夫よ! わたしがついているんだから」

 雰囲気に呑まれてB子から抑揚が失われていく。
 コツ、コツと二人の足音が奥に向かっていく。同時に口数が
少なくなってくる。恐怖は、目の前にある。
 二人は『行くよ』とアイコンタクトをし、奥のドアを開けようと
手をかけたが――――……

「あれ? なんでこのドア開かないのよ!」
「えっ!?」

 二人は恐怖で逃げ出したくなった。ドアが開かないのだ。閉じ込
められた訳では無いが、まるで中に誰かが居るように思う他ない
状況と化している。

 ――――刹那、二人は声を失った。同時にショックからか二人は
ライトを床に落としてしまった。

「い、今聞こえたよね!」
「う、うんっ……こ、怖いよB子ちゃん」

 『ソレ』は聞こえた。二人の耳に入るように。
 二人は逃げ出したかった。だが魅入られるように逃げ出せない。
 床に転がっているライトを、二人はそれぞれ拾い上げる。

 ――――が、

「ひっ!!」


309 【赤】4/4 sage 2007/04/01(日) 18:47:00 ID:Dp3Tsx2Y0
 恐怖がハモる。二人は咄嗟に互いを見て距離を取る。
 恐怖と戦慄が二人を支配する。これだけ動作しているのにも関わらず、
外部の警備員などは気づく事がない。
 いや、この怪談の『首謀者』が、それを許さない。
 ――二人は互いを見て絶句した。

「ちょ……ちょっと、アンタだれよ!」
「そういう貴女こそ誰なの!?」

 二人はまるで赤の他人のような素振りをする。
 ――当然である。“二人は二人でなくなってしまっている”のだから。
 結論から言えば簡単な話である。二人は別の姿に変えられてしまった
のだ。それが呪いの類なのか狂気による幻覚なのかは解らない。
 解らないが一つだけ解る事がある。

 ――数分後、二つの骸ができあがっていた。

 B子からナイフによって全身を血で包まれたA子。
 A子からバットで殴打されて全身から血の気を抜かれた(内出血し
た)B子。
 “あの時”、二人はそれぞれこう聞こえたのだ。

 ――赤が好き?
 ――赤は嫌い?

 ――と。やがてライトが切れ、二人の遺骸とその痕跡は闇に溶け込
んで行き、そして何もなかったように消えた。

 行方不明者は募るばかり。正体の解らない悪意は、今夜もまた生け贄
を待つ。