まるはっちん
80 本当にあった怖い名無し 2006/12/12(火) 16:26:14 ID:WdPSk05/0
保守がてら書いてみた。元ネタは>>17で。分かりにくかったらスマソ。

僕は生まれつき頭に障害を抱えていて、普通の子供と同じ事をするのも困難だと皆から思われていた。
しかし僕の精神はしっかりと物を考えることが出来るし、普通より劣るどころか遥かに優秀な精神構造をしていると自分では思う。
普通と違うのは体が僕の精神に反して勝手に行動してしまうことだった。
考えていた事と違うことを話すし、奇妙な行動をとったりする。それはまるで僕の心が他の誰かの体に寄生しているようだった。
いつしか僕は自分の体をまるで友人のように感じ、自分の体を『僕の体』と友人の名を呼ぶように呼んでいた。

世間体を気にする母は僕が知的障害者と呼ばれる事でずいぶん苦労したようだ。
そしてせめて普通の教育を受けさせようと、近所の小学校に無理を言って僕を通常学級に入学させた。

入学して数年が経ち、僕は小学五年生になっていた。
その年の学芸会で、我が五年二組は『浦島太郎』をやる事になり、僕の体には竜宮城に来た浦島太郎に踊りを踊って楽しませる『巫女』の役が与えられた。
僕の体はその事に非常に喜んでいるらしく、家に帰って母に巫女の役になったとしきりに話していた。
だが僕は巫女の役になった事をあまり良く思っていなかった。劇には役の他にも小道具や大道具と言った裏方の役割もたくさんある。
それなのにわざわざ僕の体に裏方でなく演技の方をさせると言うのが腑に落ちなかった。自分で言うのなんだが、彼らは劇の成功を望んでいないのではないかと考えた。

その時僕の体はあるCMのモノマネをするのが好きなようだった。独特の踊りを役者が踊っているそのCMを見て僕の体はいつもその踊りを真似た。
授業中もよくその踊りをしていて、クラスから白い目で見られていたのを覚えている。


81 本当にあった怖い名無し 2006/12/12(火) 16:27:28 ID:WdPSk05/0
そして学芸会当日になった。浦島太郎が亀に連れられ、竜宮城にやってくる。そこで僕の体の出番になった。
クラスメイトの一人が僕の体の所までやってきて耳打ちする。
「*川踊るんだよ。まるはっちん、まるはっちん」
彼は言った。ちなみにまるはっちんとは、僕の体が好きなCMのメロディだ。
そこでなんとなく彼らの考えが読めた。彼らはここで僕の体に例のCMの踊りを踊らせ、僕の体に恥をかかせようとしているのだろう。
彼らがどうしてその様な事を計画したのかは定かでは無かった。だが僕の中にはそうした仕打ちをする彼らに対する怒りがわいていた。
今までの生活の中でも彼らはよく僕を馬鹿にした様な行動を取ったりすることが度々あった。そのことが僕の怒りをますます増幅させる。

「……こいつらを殺してやりたい」思った。
すると不意にストン、と何かがはまる様な感じがした。不思議に思い周囲を見渡そうとすると驚いた事に僕の体は僕の意思に従い動いた。
それは僕に始めて与えられた「自由」だった。
しばらく動かない僕を見て先ほどのクラスメイトが急かす様にして言った。会場が少しざわつく。
「何やってるんだよ、早く踊れよ、まるはっちん、まるはっちん」
僕は彼の言葉を無視すると台本どおりの踊りを踊った。周囲のクラスメイトが驚いたように僕を見る。

僕は彼らを殺したいと願った。そして僕には自由が与えられた。それならやる事は一つしかない。
今彼らを殺すのはあまり得策では無い気がした。ひとまず劇を終わらせ、それから一人ずつ消していく。
放課後、一人で帰っているクラスメイトを一人ずつ。
出来るだけ相手に恐怖を植えつけたい。それなら例のCMソングを歌おう。まるはっちん。まるはっちん……。
僕はその時のクラスメイトの表情を想像して、生まれて始めて自分の意思で『笑顔』を作った。