お つ か れ


219 1 2006/08/08(火) 11:26:56 ID:OYNtWom90
最近近所で度々葬式をしているのを目撃する。死んだものは皆、二十台前半ほどの若者だそうだ。
死んだ者達の関係性は無く、死因もバラバラなのだが、ただ一つの共通点として死んだ者達の部屋からは必ず藁人形が発見されていると言う話だった。

その日俺はいつものように会社に行こうと思ったのだが、家を出たところでいつも見るはずのない物を見つけ、驚愕した。
紐で数箇所縛られ、人形(ひとがた)をしたそれは誰がどう見ても藁人形だ。
俺は近所で噂されている藁人形の話を思いだした。死んだ人間の部屋から発見される藁人形……。もしかしてそれはこのことじゃないだろうか。
不気味に思った俺は人形を持って神社へと足を運んだ。会社は、電話をして欠勤する事にする。

俺は神社の神主に事の次第を話した。神主はまだ若く、高校を出たばかりと言う感じだ。
果たしてこんな青年に任せていいものだろうかと迷っていたが、彼は俺の話を聴くと的確な指示を出してくれた。どうやらお払いをしてくれるらしい。
俺は神社の電話番号を聞いたあとで家に戻り、神主に指示された事をすることにした。

まずコップ一杯の水を用意し、部屋を暗くする。電気を消したところで、神社に電話をかける。
無機質な呼び出し音が二三度鳴った後、神主が電話にでた。俺は彼に準備が出来た事を話す。
「それでは今から供養を始めます」
彼はそう言うとしばらく沈黙し、なにやら呪文のような物を唱え始めた。
「昇抜天閲感如来雲明再憎 昇抜天閲感如来雲明再憎 昇抜天閲感如来雲明再憎」
俺の耳から神主の声が入ってくる。その声は先ほどの若々しいものではなく、年老いた老人の声に思えた。
彼が呪文を唱えるたびに机に置いたコップの水に波紋ができ、それは俺に何かが起こっている事を感じさせた。
その後五分ほど彼の呪文は続き、唱え終わると彼はこういった。
「それではコップに入った水を飲んで下さい」


220 1 2006/08/08(火) 11:28:03 ID:OYNtWom90
その時俺はあることを考えていた。死んだ若者達の、死の原因である。
噂では死んだ彼らの部屋には何故か藁人形が置いてある、と言うことだった。
以前まで俺は、それが誰かの手によって置かれたものだと考えていたが、こうは考えられないだろうか。
誰かに部屋に入れておくよう指示された、と……。
そもそも藁人形なんて気持ち悪いもの、見つけた奴は必ず神社にでも持って行くだろう。
そして彼らは皆、あの神主に言われたのではないか。
「今から言う事を実行してください」と。
部屋を暗くする事に何の意味があるだろう。水を用意する事に何の意味があるだろう。
昔から水辺にはよく霊が集まるという。それなのにわざわざ部屋を暗くして霊が集まりやすくなどするべきだろうか。
もしかしてあの藁人形は単なる囮で、彼は先ほどの呪文で霊を集め、水ごと霊を体内に取り込ませようとしているんじゃないだろうか。
その結論に至った俺は、わざと水を飲まずに、様子を見る事にした。
神主に礼を言い、電話を切った後、コップの水を流しに流す。もしこの判断が間違いだったら、俺が死ぬだけだろう。

翌日、神社の神主が亡くなったと言う事を聞いた。
何かを凝視するように目を見開いていて、自分で自分の首を絞め、窒息死したらしい。
呪いは失敗すると返って来るという。
もしかしたら彼のしている事は、強力な呪いだったのだろうか。
神主君、おつかれさま。