一人っ子(赤いクレヨン)


274 本当にあった怖い名無し sage 2006/08/21(月) 19:06:40 ID:/KDBbpG0O
とあるリフォーム業者が依頼を受け、住宅街の中の一軒家へ訪れた。

『もうすぐ子供が生まれるし、親ももう年だしな。ここを住みやすく作り変えてほしいんだ』
業者と依頼主は高校の頃からの友人。
「二世帯住宅か。嫌がるやつも多いのに偉いな、奥さんは平気なのか?」
『ほら俺、長男で一人っ子だからさ。結婚前から言ってあるしな。ただ…親父達は家をいじることに賛成じゃないんだ。そんなことするなら家を出ろってまで言ってる』
「年を取れば変化を嫌う気持ちも増えるんだろ。まあ、今よりずっと住みやすくなりますよってとこを示せば親父さんも飲んでくれるさ」

275 本当にあった怖い名無し sage 2006/08/21(月) 19:07:40 ID:/KDBbpG0O
家族の留守を見計らい、見取り図を片手に誰もいない家を見て回る二人。
『ここが俺の部屋…来たことあるからわかるだろ?今は夫婦の寝室に使ってる。子供もしばらくはここで一緒に寝かせるつもりなんだ』
「うーん、赤ん坊のうちはいいだろうけど、広さが足りないな。そういえば、ここの家は二階建てなのに子供部屋が一階だったんだな?」
『二階はもっと狭いからな。物置部屋しかないし。』
「ふぅん…二階の見取り図は大きな隙間があるけど。ちょうどお前達の寝室の上だ。屋根裏部屋でもあるのか?そこが使えれば二階に立派な子供部屋を作れるぞ。」
『さすがに親父に聞いてみないとわからないな…今はまだ壁ぶち割る訳にもいかないし、天井から入ってみるか?』

276 本当にあった怖い名無し sage 2006/08/21(月) 19:08:38 ID:/KDBbpG0O
そこには埃と重苦しい臭いが降り積もっていた。
『ふぅ…軽く言い出してはみたものの、けっこう手間取ったな。』
「ああ、屋根裏部屋にしては立派な作りだ…ちゃんと床板も張ってあるし…ここ、屋根裏なんかじゃないな。」
『でも、わざわざ二階を狭めてまで…なんのために?』
「わからない。もっと部屋全体を照らしてみてくれ。」
『…んん?』

最初、壁一面を覆うそれは、赤い模様のように見えた。しかし近くに懐中電灯を持っていくと…禍々しい悲鳴が二人の背中を冷やした。

277 本当にあった怖い名無し 2006/08/21(月) 19:10:57 ID:/KDBbpG0O
「タスケテ…。……!?…おい、下…」
『…!?…なんだよ…これ…!』

「…なあこの家…ほんとにお前ん家だよな?」
『ああ…俺の親父が建てた家だ…』
「…お前……お前、ほんとに一人っ子…か?」

ザリッ…ザリザリッ…

壁の向こうから。内側から薄い鉛色の刃が飛び出す。
二人は跳ねるようにして壁から離れた。刃はゆっくりと二度右折し、パタンと音を立て、四角い窓が出現した。その部屋は、薄っぺらいベニヤ板一枚に阻まれた先は、二階の寸詰まりの廊下だった。
「お…おふくろ…!」
安堵により光の方向に駆け寄る息子。しかし、瞬間、鋭い痛みが脇腹を突き抜けた。
「お…おや…じ…?」
包丁を握る父親にキョトンとした目を向けたまま、依頼主は絶命した。
依頼主であり旧友であったモノの傍らで震えながら男は、皺の寄った唇が動くのを見ていた。

あなたは今度こそ、なんて言ったけどさ。やっぱり男の子供なんてろくなもんじゃないじゃないか。

せめて次は女の子が来ればいいけど。

父親になりそこねた友の手が、赤いクレヨンを握る小さな白い手に重なっていた。