お守り


296 1 2006/08/30(水) 10:15:21 ID:+FzJHxzb0
久しぶりに書いてみた。ちなみに元ネタは『育美、市ね』と『ことりばこ』を足して二で割ったような感じ。

私の母は私がまだ小学生だった頃に行方をくらませた。
優しく、責任感の強い母だったために、当時六年生だった私はなかなかその事実を受け入れられなかった事を覚えている。
母はいつも私を育美、育美と呼んで可愛がってくれた。それがもうないのだと言うことは当時の私にとってかなり衝撃的な事だったのだ。
母が出て行ってからは、我が家は弟と私と父の三人家族になった。

時が経って、私は高校三年生になった。
もう既に学校では受験勉強のムードが漂い始め、私もそのムードに飲み込まれていた。
幸いにも父の収入は安定していて、大学へ進学するだけのお金はあった。
私は家の家事をこなしながら、あいた時間に受験勉強をしていた。

一月になり、センター試験の時期になった。
私は国公立を目指していたので、センター試験を落とすことは自分のなかでは許されないことだった。
自分によって作り出された緊張感はいつしかプレッシャーになり、センター試験前日には私はがちがちになっていた。

「このままじゃ落ちてしまう……」私の中の不安は段々とその色彩を増していた。
テレビを見ても、音楽を聴いても、心が休まる時は無かった。
そんな時、ふと枕もとに赤いお守りが置かれている事に気がついた。
誰が置いたものかは知らないが、きっと母が置いてくれたんだ。私の中にはその様な確信めいた感情があった。
不思議とそのお守りを手に持つと、私の中から緊張感が抜けていくのが感じられた。

297 1 2006/08/30(水) 10:16:15 ID:+FzJHxzb0
お守りを眺めていると少しだけ奇妙な事に気がついた。お守りに付いている紐である。
紐は少し太めの頑丈そうな黒い物で、細い糸のようなものを何本も合わせているようだった。
それは良く見ると髪の毛の束だと言うことが分かった。

不気味に思った私はお守りの中身が気になった。
紐の様な髪の毛の束を解き、机の上に置く。すると束になっていた紙の毛が急にバラバラになったので、私は悲鳴を上げそうになった。
髪はすべて太くて艶やかな髪質をしていた。

何とか恐怖心を抑え、お守りの中を覗くとそこには紙が一枚入っていた。
黄色く黄ばんでいて、相当古い紙だと言う事が分かる。
私は震える手でその紙を広げた。すると紙は何かを包んでいたらしく、包まれていた何かは机の上にバラバラと音を立てて広がった。
良く見るとそれは爪だった。
爪には肉片のような物がこびりついていて、見るからにそれは生えてもいない爪を無理矢理切り取ったものだと言う事が分かった。
私は震える声で黄色い紙に書かれた文字を読み上げた。
そこには血文字でこう書かれていた。

「今度、迎えに行くから」