フジツボ

371 1 2006/09/08(金) 22:16:22 ID:0Yz6NlTF0
元ネタはフジツボの話な。ちょっと今回駄目かも試練


夏の海辺での事だった。
その日私は久しぶりに高校時代の親友の里美と海まで遊びに来ていた。
気温はまだ暑かったが、季節はもう秋へと向かう九月だったので、海には余り人がいなかった。
私達はまだ大学が休みなので、平日が暇なのを利用することにしたのだ。

はじめは二人で砂場で無邪気に遊んだりしていたのだが、いい加減体が熱くなってきた辺りで里美は私に提案した。
「ねぇ、今からあそこの岩場まで競争しない?」
見ると私達のいる浜辺から数百メートルほど離れた場所に針のような岩が突き出ていた。
ただ岩と行ってもそれは決して小さな物ではなく、大人が十人以上は余裕で上れそうな物だった。
私が里美の提案を了承すると、里美は真っ先に海に飛び込んで行った。

里美は泳ぎが得意な子だった。
一方私はどちらかと言うと泳ぐのは苦手で、里美より泳ぎが遅く、更に遅れてスタートした私に勝ち目は無かった。
だが意外な事に先に岩場についたのは私だった。岩場に登り、辺りを見回したが里美の姿は一向に発見することが出来なかった。

しばらく待ったところで私は里美がおぼれたのではないかと危惧し始めた。
私は里美の名前を呼びながら辺りを泳ぎ、海にいた他の人にも里美を探すのを手伝ってもらい、最終的には警察も来たがとうとう里美を見つける事は出来なかった。
やっとの事で家に帰った頃には一度沈んだ太陽が再び顔を出していた。
私は里美の事が心配だったが、体は疲労しきっていたため、いつの間にか眠ってしまっていた。

372 1 2006/09/08(金) 22:17:05 ID:0Yz6NlTF0
「……響子」
誰かが私の名前を呼ぶのを聞いて目が覚めた。
一体どれほどの時間眠っていたのかは知らないが、まだ陽が射しているのを見るとそれほど時間は経っていないようだった。
私は誰に名前を呼ばれたのか気になったが、その時はただ寝ぼけていただけだろうと考える事にして、私はしばらく眠らずにベッドの上に横になった。
「……響子」
しばらくしてまた自分の名前が呼ばれるのが聞こえた。
目はもうすっかり覚めていたので、今度は聞き間違いではないと確信した。
声は心なしか里子の声に似ていた。

「里子なの?」
私が言うと声は「ここよ」と返事をした。それは私の足元だった。
私が足元に視線をやると、自分の足が大きく切れている事に気がついた。
傷口は大きく、まるでかみそりで切ったようにキレイに切れていた。ただ、痛みは感じなかった。
私が視線をやると、また里子の声がした。声は、傷口の中からしていた。
「響子、ここよ」

私は意を決して傷口を手の平で押さえつけた。すると掌に奇妙な感触が伝わってきた。
察するに、硬い何かが私の傷口から入り込んだようだった。
恐ろしくなった私は半狂乱になりながら傷口に入り込んだ異質物を取り出そうとした。
傷口に触れたとたん、先ほどまで感じなかった鋭い痛みが私を襲った。それでも私は傷口に手を入れた。
「響子、止めて、痛い、痛い!!」
里子の声が部屋の中にこだました。私はかまわずに異質物を掻き出そうとした。既に足からは大量の血が出ていた。

バリッ、と言う音と共に私の足に入り込んでいた異質物が出てきた。見るとそれはフジツボだった。
もう、声は聞こえてこなかった。部屋に再び静寂が帰って来た。
しばらくして私は自力で近所の病院へ行った。血はかなり出ていたが、幸い命に別状は無かった。

数日後、里美の遺体が発見された。
彼女の体には大量のフジツボが付着していて、唇の部分だけが、まるで誰かに剥ぎ取られたかのように無くなっていたそうだ。