トンネル奇譚


746 送り狼 ◆weJoc1mo9Y sage 2006/10/31(火) 22:06:19 ID:BeRaGJ+Y0
<その@>
大学のサークル仲間4人が、有名な心霊スポットに肝試しに出かけた。
そこは車のほとんど通ることもない、山奥にある旧道の古いトンネル。
その中央に停車し、ライトを消してクラクションを3度鳴らすと
幽霊が現れるとか、何らかの心霊現象が起こるといわれていた。

確かにそこは、いかにも何か出そうな雰囲気だった。
決して長くはないが、トンネル灯がないので真っ暗闇。
数日前に振った雨が染み出してきているのか、ところどころ水が漏っている。
道幅も2台がぎりぎりすれ違えるかどうかの狭いものだった。

4人はともかくトンネルの真ん中に車を止め、ヘッドライトを消した。
そしてクラクションを、1回、2回、3回……
「……べ…別に何も起きないな…」
運転席の男がそう漏らした…刹那――――
バタバタバタッ―――と何かが叩くような音と共に、軽く車体がゆれた。
4人の中に一瞬にして緊張感が張り詰める。
そのまま20秒ほどたったろうか、フロントガラスに数滴の雫が落ちてきた。
何の変哲もない、ただの水のようである。
「…なんだ…天井から落ちた水が車体を叩いただけか……」
誰からともなくそういう言葉が出て、皆安堵の色を浮かべる。

747 送り狼 ◆weJoc1mo9Y sage 2006/10/31(火) 22:07:04 ID:BeRaGJ+Y0
<そのA>
緊張から解放された4人はトンネルから少し離れた場所に車を止めた。
そしてあれは怖かっただの、誰が一番びびってただのと、笑いあった。

さて帰ろうかということになったとき、尿意を催した助手席の男が車を出た。
そして適当なところで用を足し、車に戻ろうとした。
そこで彼は見てしまった……
車の屋根にべったりと張り付いた、無数の小さな手形を。
そして、サイドミラー越しに何十もの人影がゆっくりと近付いて来るのを。

「おい! やばい、早く出せ!」
男は助手席に飛び乗って、早くこの場を立ち去るように運転席の友人をせかした。
運転手も他の友人もミラーを見て異変に気がついたらしく、恐怖に顔を引きつらせている。
が、車はなかなか発車しようとしない。
「なにやってるんだ! 早くしろ!」
しかし運転席の友人は息を荒げてブルブルと震え、涙を流しながら呟くだけだった。
「…だめだ……あ…し……足が……だめなんだ……俺の足……嫌だ…離してくれ……」
その言葉に他の3人が彼の足元を見る。
そこには青白い顔をした血まみれの女が、彼の足にしがみついていた。
車の床から生えるように顔と腕だけを伸ばして…………