友達


834 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:14:09 ID:ussGkdJA0
友達

 私の通っている学校には「旧校舎」と言うものがある。今使っている校舎を建てる際に壊されるはずだったのだが、解体作業中に事故が起こったりと、
色々あってその作業は有耶無耶になり、こうして残っている、と言うわけだった。

 事故の原因は相変わらず謎のままだ、その所為か、周りでは色々と憶測を立てている、「幽霊が出る」だの、「単なる操作ミス」だの・・。
しかし私は、「真実を見ていないのに色々と言う」と言うことが嫌だったので、どうせならいってみれば?と心では思っていた。

 そんなある日・・・・。
友達と帰っていると、教室に財布を忘れてしまったことに気づいた私は、心配する友達をよそに戻ってしまった。
先生や用務員さんがたまたま校内にいて、教室まで案内してもらったので財布はあえなく見つかった、が、しかし。

 ポーーーン・・・・・ポーーン・・・・

 旧校舎のほうから「音」が聞こえてくる、音からすると、どうやらボールのようだったが、私たちの学校は女子校だ、こんな夜中にボールを突く生徒などいないはずである。
しかも、解体作業後、あそこには鍵がかけられていて、入れないはずだ。まあ新校舎の方は、カードやら機械やらだし、先生もたまたまいたのだからは入れたのだが。

 もちろん校庭には誰もいない、念には念を、と言うことで、案内してもらった先生から懐中電灯を借りて、旧校舎のほうへ歩いていった。


835 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:15:38 ID:ussGkdJA0
鍵がかけられているはずの扉は、鍵が壊されていた、それも乱暴に、暴力的に、しかし、入るための問題が解決したので、そのまま中へ入っていった。
中はとても暗かった、このときばかりは懐中電灯を持って来て良かった、と思った。

 「中に誰か入ったのかな〜?だからボールの音がしたのかなあ?」

 ギシ・・ギシ・・ギシ・・・足音が廊下に響き渡る、もちろん私のだ。

 教室を何室か調べ、ついでに、定番の、トイレも調べた、が、特に何もなかったので拍子抜けしてしまった。

「はあ〜、なんだかそんなに怖くなかったな、でもこれならみんなの肝試しに使えるかな、この調子で2,3階も調べちゃうか」

 と、そのとき

 ギシ・・ギシ・・ギシ・・

 足音が私の耳に入った。鍵が開けられてたからその人かな?と思ったので、合流しようと、足音の方へ歩いた。

 (2,3階は後回しだな、まずは人集めか)さすがに一人は怖かったので、人数が増えると思いちょっと嬉しかった。

836 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:17:10 ID:ussGkdJA0
廊下を音のした方に歩いていくと、「キャー」と言う叫び声と共に、何かが私に突っ込んできた。そして私を見るや否や、「キャー」と叫ぶ。そして私も「キャー」
落ち着いてみると、女の子のようだった、服装も時代錯誤というわけではない、私服だったが。とりあえず一緒に行動することになった。やっぱり怖かった、一人は。

 辛気臭い雰囲気も嫌だったので、話しながら校舎を回った、どうやら彼女は美紀という名前で、この学校の生徒ではなく、付近の家の人だそうだ、たまたま噂を聞いてやってきたらしい。
と言っていた、信じようが信じまいが同じことだ、私は電車通学だったので、付近の家は知らない。

 「ところで美紀ちゃんは、ここについて何か知ってるの?」
 「う〜ん、強いて言うなら、友達をほしがるって言うのは聞いたことがあるかな」
 「なに?それ」
 「そのままの意味よ、一緒に行動した人を無理やり友達にしちゃうってやつ」
 「なった人は?どうなるの?」
 「さあ、知らない、ママが『あそこには行くな』って言ってたからわからない」
 「ふ〜ん、そういえば、ここに来る前、ボールを突いてるような音がしたんだけど、それって美紀ちゃん?」
 「いいよ、美紀ちゃんなんて、美紀で。えっと、ボール?突いてないよ?聞き間違いじゃない?」
 「う〜ん、確かに聞いたんだけどなあ、ほかに人がいるとかそういうのは?」
 「それも駄目だよ、だって見たのは君だけ・・・、そういや名前なんていうんだっけ?まだ聞いてなかったよね。」
 「あ〜、うん、そうだね。えっと、私の名前は裕子、まあ好きなように呼んで」
 「そうするわね、えっと、祐ちゃんでいいかな?」
 「祐ちゃんか〜、うん、いいよ」
 
 その後私と美紀ちゃんは校舎を調べまわった、特には何かあるように見えなかった、2階にも行ったが何にもなかった。


837 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:18:15 ID:ussGkdJA0
「なんにもないわね〜、なんか拍子抜けしちゃうなあ、そう思わない?美紀ちゃん」
 「うん、確かにそうなんだけど、この先には・・・なんか・・・」
 「なんか・・・・、何よ」
 「なんか・・・・・・・行きたくない、なんか不味いような感じがしちゃう」
 「そんな事言ってちゃだめでしょ〜行っちゃおうよ〜、ね〜、美紀ちゃん」
 「あ、ちょっと!!祐ちゃん」

 3階への階段を荒々しく上り、教室「6−2」で、私は・・・・・・地獄を見た、というのは少し大げさだろうが、酷いものを見た。

 「6−2」は教室と言える物ではなかった。
元は教室だったのだろう、机や教卓、掃除用具庫などはちゃんと置いてある。しかし、しかし、しかしそんな者は目に入らなかった。

 人が、人が、人が吊り下げられているのだ。まるでタロットカードの一つの様に、腕を縛られ、逆さづりに、しかも吊り下げられた人間たちには生気が感じられなかった。

 「な、な、な、な、な、」私は何も言えなかった、この光景はさすがに限度を越えている。
 「あ〜あ、見つかっちゃいましたか、祐ちゃん」
 「な、な、な、なにを・・・・・」
 「彼らが、彼らが、彼らが、拒否したから・・・」
 「何をよ!!、何を!!」
 「私と友達になることを・・・・・だから・・・せめて一緒になろうと・・・・」

838 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:19:51 ID:ussGkdJA0
そのとき私にはすべてがわかった、何しろもともとヒントはたくさんあったのだ。
友達を欲しがる、こんな夜中にこんな女の子が一人、しかもこの近辺には農業を営んでいる人しかいないのだ、周りは畑、怪しむ余地はたくさんあった。
ママの言うことなどいくらでも作れる、ボールなんてどうにでもなる。たしかに、これじゃあ何が起こっても外には漏れない。

 「私は・・・・あなたの・・・・友達?」美紀は滔滔と語りかける。
 「私はあなたの・・・・・友達?」また同じことを・・・・。
 「私は・・・・・あなたの・・・」
 「友達なんかじゃないっ!!!!!」

 私はそう叫ぶと、手近にあった掃除用具の箒を取り、振り上げて、下ろした。

 ゴシャア  鈍い音が旧校舎に響く、何回も、何回も、何回も、何回も。

 「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、さすがに、これだけやれば、大丈夫かな?」
 既に美紀と名乗っていた女の子は人としての原形をとどめていなかった、腕は折れ、肩甲骨は割れ、膝は逆に曲がり・・・こんなことがよく女の腕で出来たかと思うと少し恐ろしかった。

 「と・・・・も・・・・・・だ・・・・・・・・ち・・・・・・?」
 「何で?何で?何で生きてるの?」
 「み・・・・・・ん・・・・・・・・な・・・・・・・こ・・・・・・う・・・・・し・・・・・た・・・だ・・・・・・・・か・・・・・・・・ら・・・
   で・・・・も・・・・・な・・・ん・・で?・・・・み・・・ん・・な・・・避け・・・・・る・・・・・の・・?」
 
 美紀を残して私は逃げ出した、階段を駆け下りる、楽に逃げ切れるはずであった、が、しかし、後ろから、「何か」が迫ってくる。

 「まっっっっっってよう、祐ちゃーーーーーーーん!!!」美紀だ。美紀が、あんな形でも追ってくる。


839 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:21:04 ID:ussGkdJA0
私は夢中で走った、もう後ろなんか見てられない、見たら追いつかれ、追いつかれたら・・・・・・・・。

 「やった、入り口だ、あっ!!」
 入り口までもう少しのところで、転んでしまった。見ると美紀が私の足をつかんでいる。

 「つ〜か〜ま〜え〜た〜、えへ」
 「いやあああああああああああああああああ!!!!!!離してえええええええ!!!!!!!!」

 笑顔をひしゃげた顔に浮かべた美紀、骨が覗く腕で私の足をつかんでいる、人として不完全な組織になっているはずなのに、力は緩むことはない。

 「こ・・れ・・で・・い・・っしょ・・・だ・・えへ・・さ・・・い・・こ・・・う・・よ」
  
 既に私は声が出せなかった、目の前にある恐怖とこれから起こる恐怖に屈した所為で、ただ、心の中で、(誰かっ誰か、早く来て)としか思えなかった。

 だが・・・・その時・・・

 「裕子!?どこにいるの?裕子!いたら返事して!!!」
 「落ち着いて夏美、ほら、鍵が壊れてる、たぶんここだわ、裕子怖いものが好きだったし」
 「過去形にしないでよ!!貴子、絶対裕子は生きている、ほら、行くよ!!」

 ドバン!!!

840 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:22:58 ID:ussGkdJA0
落ち着かない声と共に入ってきたのは、「先に帰っといて」と言ったはずの、夏美と貴子、私の姿を見て、それから私を引きずるモノを見て。

 「貴子、そっち持って!!こいつから離すわよ」
 「うん、せーの」

 二人掛かりでも美紀の腕一本にはびくともしない、それどころかどんどん私達を引きずり込もうとしてくる。

 「と・・・も・・だ・・・ち・・・・ふ・・・・え・・・・・る・・・?い・・・っしょ・・に・・・・」
 「友達〜?ちょっとあんたねえ」
 「ちょっと貴子、危ないよ!!」
 「ちょっと黙ってて、夏美、
  そこのあんた、友達を傷つけておいて、何でそんなことがいえるのよ!!!!傷つけるだけじゃ、悪い関係しか生まないんだよ!!」

 美紀はその一言が刺さったのか、腕の力を緩めた、その隙に、夏美と貴子は私の体を美紀から離し、旧校舎出口まで行った。
と言っても私は動けるような状態ではなかったのだが、それでも出口まで行った。


841 ぽんぽん 2006/11/10(金) 22:23:51 ID:ussGkdJA0
「に・・・・げ・・・・な・・い・・で・・・・」
 美紀の悲痛な叫びが、小さく響く、私はそれに答えるように、

 「ごめんね、寂しかっただけっていうことはわかったけど、それじゃあ友達は来ないよ、それじゃあ、誰も寄り付かない、変わらないと」

 もう美紀は追って来なかった、そのまま私達は帰路に着き、それぞれの家に帰った、もちろん親に怒られてしまったが。
あれ以来、旧校舎のほうは、完璧に壊され、今ではただの広場として生徒に使われている。今回の工事では何にも起こらなかったが何でだろう。

 そして美紀の方は、あれ以来見ていない、私としてはも一回姿を見たかったのだが、貴子と夏美に、それぞれ、

 「絶対だめ!!!」
 「もうやめようよ、さすがにないよ、もうあんな怖い思いしたくないよ」

 と、真っ向から否定されたのでやめにした。

 あ〜、やっぱり友達って良いなあ〜、そんなことを思いながら、日常は過ぎていく。