壁の中


103 1 sage 2006/07/10(月) 15:54:57 ID:kqEuXjj+0
自分で立てたくせに最近これてなくてスマソ。
>>99-102
超乙。相変わらずのハイクオリティだ。

最近ワンルームマンションに引っ越した。新築で、三階建てのキレイなところだ。
郊外にあるそれは十畳一間で更にキッチンがついており、それでいて家賃が月一万円と言う異例の安さであり、
このマンションの存在に気付いた俺は早速不動産会社に連絡を取り、借りる事にした。
最初はこの異様な安さには何か理由があるんじゃないかと疑っていたが、見学したところ特に問題もなく、
その考えは杞憂に終わった。

引っ越して一ヶ月ほどたった時の事だった。
その日、あまりの暑さになかなか眠れなかった俺は、気分転換に本を読んでいた。

コンコン

不意に、壁が叩かれる音が響いた。遠慮がちで、妙に弱弱しい。
俺は不思議に思った。なぜなら俺の部屋はマンションの一番端に位置しており、ノックされている壁の方向には部屋などないからだ。
当然人もいない。
俺は壁に耳を当ててみた。何の音もしない。やはり気のせいだったのだろうか。そう思って耳を壁から離そうとしたときだ

ゴンゴン

また同じ所からノックが聞こえた。さっきより少し強い調子で叩かれている。
不気味に思った俺は窓から様子を見てみる事にした。
「あれ?」
奇妙な事に、俺の部屋の隣には奇妙な空間があり、壁には俺の部屋と同じ様に窓までついていた。
「なんだこの空間?」俺は思った。一部屋分もない。ほんのわずかな空間だった。

104 1 2006/07/10(月) 15:55:51 ID:kqEuXjj+0
ドンドン!!

壁が先ほどよりも強く叩かれた。

ドンドン!!

音はだんだんと強くなる。

ドンドン!!ドンドン!!ドンドンドンドンドン!!!

ついに叩かれた壁がギシッ、と軋みだした。このマンションの壁はそれほど薄い物ではない。
だが目の前で軋んでいる壁は、まるでベニヤ板のように薄いと言う印象を俺に与えた。
そう言えばこの部屋は十畳。他の部屋は十二畳だと、俺は不動産屋から聞いた。
向こうは設計上のミスだと言っていたが、ひょっとしたら本来十二畳の部屋が何かの都合で区切られているんじゃないだろうか。

しばらくして壁から聞こえてきた音は止んだ。もしこの壁に何かがいるのなら……そう思って俺は再び壁に耳を当てた。
最初は何の音もなく、何かがいるという考えは間違いなのだろうかと俺は思った。だが、違った。
なぜなら壁から声が聞こえてきたのだ。こもった低い女の声で、まるで俺がそこに耳を当てている事を知っているといわんばかりに近い場所から。

「ここから出して」

気がつくと俺は大家の家に駆け込んでいた。部屋の向こうに何かいる。俺は言った。
翌朝、大家が業者を連れて問題の壁を調べると、ノックされていたわずかな場所だけベニヤ板で人為的に壁が作られていた。
そこでは天井から首を吊っている女の死体があった。不思議と、腐臭はしなかった。
彼女の指の爪はすべて剥がされており、壁には血で『タスケテ』と書かれていた。