メリーさん〜メリーサイド


52 本当にあった怖い名無し sage 2006/06/30(金) 11:44:05 ID:AUjrfaGN0
「ふぅ・・」
強い日差しの中、私は公園のベンチに座っている。
握り締めた携帯電話だけ、機械的な冷たさを残している。
暑いのは気温のせいだけではないことを、私はわかっていた。

私は、恋をしているのだ。

3年前のちょうどこの時期、私はこの場所で彼に出会った。
出会ったと言っても、私には見ていることしかできなかったのだけれど

彼が初めて公園に入っきたとき、両手には猫とスコップを持っていた。
最初は散歩かな、と私は気にも留めなかった。
しかし彼は猫を放してやることもなく公園の植え込みまで行き、
そっと猫を脇へ置いて地面をスコップで掘り出しはじめた。
そこで私はあぁ・・そうか、と気づいた。
猫を見るととてもグロテスクな、生きているとは思えない姿をしていた。
この近辺では猫が道路に飛び出してその小さな生命を奪われるなんてことは日常茶飯事だった。
でも誰もそんなことは気にしない、むしろ汚いモノを見るようにその子達を眺めていた。

53 本当にあった怖い名無し sage 2006/06/30(金) 11:44:42 ID:AUjrfaGN0
しかし彼は違った。
彼の着ているTシャツは血とその子のモノでひどく汚れていた。
だけど彼はそんなことは気にも留めない様子で、熱心に地面を掘り出していた。
今思えば、このときすでに私は彼に惹かれていたのかもしれない。
猫を掘り出した地面にそっと置き、上から土を手でやさしく置いていく。
彼が帰ったあとのその土のわずかに盛り上がった部分を見て、
不謹慎だけど私は心が温かくなっていた。
そのように3年間、彼は頻繁に公園に訪れた。

今日こそ、彼に。
過去の思い出ばかり追っていても何も前に進まない。
そこで私は現実に戻ってきた。
相変わらず日差しは強い。太陽は真上辺りを指している。
携帯電話を見る。
掛けなきゃ、前に進まないと。
掛かった。

54 本当にあった怖い名無し sage 2006/06/30(金) 11:45:55 ID:AUjrfaGN0
「はい。もしもし。どなたですか?」
「私メリーさん。今近くの公園にいるの。」
「・・・・・・ぇ。」

電話が切れてしまった。電波の状況かしら。
恥ずかしがりやの私は、電話ではひどく冷たい口調になってしまう。
彼の声を聞くのははじめてだった。心臓がどきどきしている。
いつもの公園と言いそうになって、すこし焦ったけど、うまくいったはずだ。

そうだ、彼のお家へ行ってみよう。
電話からはおそらく室内、今日は日曜日、お家にいてもおかしくはない。
いなくても、それはそれでいい。
私は歩き出す。彼の家へ。
途中のコンビニ辺りで、もう一度電話を掛ける。
さっきは電波がうまく入っていなかったのだろう。

「もしもし。」
彼だ。
「私メリーさん。今コンビニの前にいるの。」
「な、なんなんですか・・・!?」

55 本当にあった怖い名無し sage 2006/06/30(金) 11:47:05 ID:AUjrfaGN0
また切れてしまった。電波は目に見えないから困る。
でも彼に私の居場所は把握できたはず。
うきうきしてきた。
名前も言ってるから、私覚えてもらえたよね?
彼のマンションが見えてきた。
もう一度

「私メリーさん。今あなたのお家の前にいるの。」
「やめてもらえませんかっ。」

彼は少々恥ずかしがりやなのかもしれない。
私と同じだ。なんだかうれしい。
でも会ってなんて言おう。
いつも公園でお見かけします?
電波の具合で名前と今の居場所しか言えず、
それ以外の自分アピールができない。
ま、それでもいっか。
会いたい気持ちは弱まらない。
だって3年もあたためてきた気持ちだから

「私メリーさん。今あなたの部屋の前にいるの。」
「・・・・・・・・ひっ。」

56 本当にあった怖い名無し sage 2006/06/30(金) 11:47:54 ID:AUjrfaGN0
ドタバタという音がドア越しからも聞こえる。
あわてて大掃除かしら、かわいい。
彼に会える。彼に会える。

室内は思ったより暗く、そして散らかっていた。
あわててドジしちゃう性格なのかも。
部屋の奥に、いた。
私に背をむける格好で床に座り、木刀のようなものを持って肩を激しく上下させている。
彼もどきどきしているのねっ
私の中ではすでに彼との幸せな未来が出来上がっている。
ここから、スタートだ。

部屋に着信メロディが響き渡る。
彼はひどく興奮しているように見える。
はぁはぁ言っちゃって、もうそんな想像までしてるのかな?きゃ
これで最後だよ。その後は電話じゃなくほんとのおしゃべりをしようね。
さぁ、出て

「・・・はぁはぁ・・・・も、もしもし。」
「私メリーさん。今、あなたの後ろにいるの。」


メリーさん〜メリーサイド〜 完